筑波日本語研究 第九号

2004年11月30日発行

橋本 修

連体修飾節のテンス,「翌朝」,発話時基準,トキ名詞句

要旨

トキをあらわす名詞を修飾する節の中で、「翌朝」「翌春」等を修飾する連体修飾節の方が「翌日」を修飾する連体修飾節よりも発話時基準解釈を許容しにくい、という現象がある。この現象は、「前者の方が、比較の基準となる時点(の単位)が不明確である」ために起こると考えられる。

一方「翌朝」タイプの名詞を修飾する連体修飾節と、「まえ」「あと」を修飾する連体修飾節とを比べると、後者の方がさらに発話時基準解釈を許容しにくい。これは、主要部(被修飾名詞)の名詞としての自立性の差が関わっている可能性が高い。

許 宰碩

動き,変化,変化時点,発話時,完結性,状態性

要旨

本稿では、日本語の「た」は動きの変化時点が発話時以前であることを表わすのに対し、「ている」は発話時に捉えられる状態をあらわすとみる。そのため、日本語の「た」は発話時に持続する状態をあらわすことができない。たとえば、発話現場での「ランナー、走った」のような表現は、持続する動きをあらわすのではなく、「走っていない」状態から「走っている」状態への変化時点が発話時以前であることを表わしている。日本語の「た」は決して状態性を有していないとみられる。このことは、日本語の「た」と韓国語の「eoss」との比較対照を通して明らかになってくる。両者は基本的に同じ働きをしているが、次のような二点において相違が見られる。一つは、韓国語の「eoss」は、発話時以前に動きが完結していないと、使いにくいようである。もう一つは、韓国語の「eoss」は状態性を有しており、現在の状態をも表わすことができる。「た」と「eoss」の相違は、両言語の歴史的な変化の反映であることを示唆する。

宮城 信

「はじめる」,「つづける」,「おわる」,局面動詞(構文),連続動作

要旨

本稿では、単一動作および連続動作(複数の動作)の開始の局面「はじめる」形、継続の局面「つづける」形、終了の局面「おわる」形の構造と意味に関して動詞のアスペクト的な素性の違いに注目して考察を行った。単一動作の場合の局面解釈の要件には開始限界を突破した時点で動作が一部成立していることが重要であり、連続動作の場合は(二つの構造があり)、一つは単位動作が限界性を含意すること、もう一つは単一動作の局面解釈が許容されること、が要件にとって重要である。よって、連続動作の局面解釈には、単一動作の局面解釈とは異なる特立した要件があることになる。

中沢 紀子

連体修飾節,ウ・ウズル,キリシタン資料,形式名詞,副詞

要旨

本稿は、中世末期の日本語を反映していると言われるキリシタン資料を用いて、連体節述部のウ・ウズルがどのような条件下で現れやすいのか、その使用実態を調査したものである。

調査から、連体節述部のウ・ウズルは「動詞+ウ」「動詞+ウズル」といった述部形式が多く、タリやテアルとウ・ウズルとの共起は殆どみられないことがわかる。また、この連体節の被修飾名詞には、形式名詞の出現傾向が高い。連体節述部と共起する副詞には、時間・時点を表す副詞の用例が多くみられる。これらの副詞が表す連体節の事態についてみると、時間的前後関係は主節の表す事態より後のものである。

冨樫 純一

終助詞,文末表現,文献目録,研究論文

要旨

本文献目録は、現代日本語の終助詞に関する研究論文の目録である。山田孝雄(1908)以降、2003年12月末現在までの論文で、現代日本語の終助詞を取り扱っているものを調査し、掲載してある。終助詞を中心的に扱っている論文が主であるが、モダリティ表現やジェンダーが中心的な対象となっている論文でも、終助詞に関して言及している箇所があるものはできるだけ採録してある。