筑波日本語研究 第二十九号
2025年01月30日発行
彭 玉全・宋 珮琪
条件表現,時間視点,事実視点,主節と従属節の相関関係,数学モデル
要旨
本研究は、時間的観点により、「~と」「~たら」「~ば」「~なら」といった条件を表す4形式に注目し、具体的には平面直角座標軸を構築し、条件文を数学モデルに位置づけ、その用法における相違を考察した。まず、先行研究における、「~と」「~たら」「~ば」「~なら」の用法を整理した。次に、その内容を分析・比較した上で、X軸を従属節に、Y軸を主節に、条件文を一次関数にする平面直角座標系を構築してみた。最後に、その数学モデルの意味特徴を説明し、「~と」「~たら」「~ば」「~なら」といった4形式を数学モデルに入れ、それぞれの従属節と主節の関係及び条件表現間の相違点をまとめてみた。考察の結果、以下の2点を明らかにした。1点目は、「~と」「~たら」「~ば」「~なら」といった条件文がいずれも時間的視点を有するほか、従属節と主節は緊密な時間関係がある。2点目は、筆者が作った数学モデルの中で、第一象限は「~と」「~たら」「~ば」「〜なら」の一般条件、反復条件、事実条件に入り、第二象限は全部仮説条件で、第三象限は「~たら」「~ば」「〜なら」の反事実条件に合っていて、第四象限は「~なら」の反事実条件に適合する。
崔 競文
外来語,アクセント,特殊モーラ,撥音,促音,挿入母音,非対称性
要旨
本稿では、起伏式アクセントを持つ外来語において次語末特殊モーラの種類がアクセントの位置に影響を与えることを明らかにする。次語末特殊モーラが撥音である場合は、他の特殊モーラに比べてアクセントが既存のアクセント規則が予測する位置よりも前進しやすい。本稿では次語末に特殊モーラを含む外来語を抽出し、この現象が生じる仕組みについて考察した。次語末特殊モーラが撥音と促音の場合とでは両者の分節構造上の特性の違いにより、これらに後続する語末挿入母音は非対称性を示す。撥音の場合では語末挿入母音が不可視性を示し、促音の場合においては可視性を示すという性質を明らかにした。
ジョン・ソヨン
外来語,日韓対照,国語政策,荒川惣兵衛,楳垣実
要旨
言語変化には長い期間にわたって徐々に起こり、同時代の人々には感じにくいものもあり、一方で同時代の使用者に変化を感じ取ることのしやすい急激な変化もあるが、本稿で取り上げる「西洋外来語」の浸透は後者に該当する急激な変化である。外来語の浸透は日韓両国の言語体系において非常に大きい影響を及ぼしており、今も言語構造全体において活発な研究が行われている。
現在行われている外来語の研究は西洋外来語を言語研究対象として取り扱い始めた外来語研究者の努力が基盤となっている。言い換えると、現在の外来語の研究を先立って欠かせないのが大正・昭和初期に行われた外来語の初期研究である。新しい外来の文物・思想の流入を伴う近代化の成功を通じて国が豊かになることを生々しく経験していた日本においては外来語に対しても積極的な研究態度がみられる反面、当時国が不安定であった韓国における西洋外来語との遭遇は当時の歴史の事情も絡み、日本語と同様に排斥すべき対象、韓国語を乱す存在として認識され、外来語の総合的な研究は日本と比べてかなり遅く行われることになった。本稿ではこのような両国の事情を踏まえ、両国における昭和初期の西洋外来語に対する研究や言語学者の認識・態度を概観する。また、韓国において行われている「外来語純化」という政策ついても簡略に述べる。
蔡 嘉昱・谷 文詩
逆輸入,漢語,中日対照
要旨
漢語の輸入と輸出は、中日両国の文化交流と言語発展を推進してきた。近代以降、日本語で新たな意味用法が生じた漢語が中国語に逆輸入されるという現象が多く見られる。本研究は漢語である「存在」を対象として、中国語と日本語の近現代資料を用い、中日両言語の「存在」の用法の違いを分析し、漢語の逆輸入について考察するものである。
孫 逸
オノマトペ,引用用法,分類
要旨
本稿は日本語オノマトペの用法を調査し、調査結果に基づいてオノマトペの分類方法について再検討するものである。本稿ではBCCWJから収集した用例を利用し、日本語オノマトペの主な用法を明らかにした。その用法の特徴の一つは、「引用用法」と「するの後接用法」との相補分布となっていることである。日本語オノマトペは「音」という要素の有無で、「擬音語」「擬態語」「擬音語・擬態語」に分類されているが、具体的に見ると、それらの境界は曖昧なところがある。したがって、従来の分類方法の適切性について検討し、「引用用法」の適応によって日本語オノマトペを「擬音語」「擬態語」「擬音語中心の擬音語・擬態語」「擬態語中心の擬音語・擬態語」に分類する提案をした。
劉 玲