筑波日本語研究 第二十七号

2023年02月03日発行

菅野 倫匡

同字異訓,異音同表記語,同形語,同綴異義語,音訓読み分け

要旨

読み方の定まらない語は近現代日本語のコーパスを構築するに当たって問題となるものである。これは電子化した本文を語に分割して品詞などの情報を与える際に同一の表記でありながら異なる読み方を持つ語が現れることから当該の表記について複数の読み方を想定し得るからである。このような問題が生じ得る語について本稿は今後の更なる検討の前段階として林立する用語と該当する語例との整理を試みるものである。

Dinh Thi KIM CUONG

連体修飾,外の関係,内容補充,相対補充,関係詞

要旨

連体修飾の語順において、日本語では修飾節が被修飾名詞(以下、主名詞と呼ぶ)に先行するのに対して、ベトナム語では主名詞が修飾節に先行している。また、修飾構造においては、日本語では、場合によって修飾節と主名詞の間に「という」が介入するのに対して、ベトナム語では主名詞と修飾節の間に関係詞màが介在することがある。本稿では、対照言語の視点から見る日本語とベトナム語における連体修飾の外の関係に関する問題点を検討しながら、両言語においてどのような相違点、類似点があるかを概観する。

尚 暁歓

副詞,ろくに,意味,使用条件

要旨

本稿ではコーパス(BCCWJ)から収集した用例に基づいて「ろくに」の意味と使用条件について考察した。「ろくに」の基本義は「事態の内容が話し手の想定したところに達している」というふうに規定できる。この基本義によって、「ろくに…ない」が具体的な文脈においては、「数量未達成」「動作未達成」「状態未達成」の三つの発生義が生じる。この三つの発生義は排他的な関係にあるわけではなく、文脈によっては複数の解釈も可能である。「ろくに」が使用される文は①発話時には事態の状況が把握されている、②事態には少なくとも二つのあり方を持ちうる、といった二つの条件を満たす必要があり、また文の内容が主体の期待されるものでなければならない。

孫 逸

オノマトペ,日中対照,使用実態,反復形

要旨

本稿は日中両言語における感情を表すオノマトペを研究するため、「笑い」と「泣き」を表すオノマトペを対象にし、日中コーパスを利用して、日中オノマトペの使用上の相違点を明らかにするものである。また、日中オノマトペの使用実態を対象にした上で、日中感情オノマトペにおける反復形の相違点についても検討を試みる。考察した結果として、以下の2点を明らかにした。まず、使用実態について、日本語は擬音語の語数が多いが、実際に使用する時は擬態語のほうが多く使われているのに対し、中国語は擬音語の語数も多くて、実際の使用も多く見られることが確認できた。さらに、日中感情オノマトペの反復形の相違について、日本語も、中国語も、反復形が感情オノマトペに多く見られるため、反復形は日中感情オノマトペの代表的な語構成法と考えられる。一方、日本語感情オノマトペにおける反復形は、「生産的な反復形」と言えるのに対し、中国語感情オノマトペにおける反復形は、「語彙的な反復形」と考えられる。

劉 玲