筑波日本語研究 第二十六号

2022年01月14日発行

落合 哉人

LINE,携帯メール,対面会話,CMC,終助詞,確認

要旨

本稿では、2000年代の携帯メールと2010年代のLINEチャット及び、それらと概ね同時期の対面会話における終助詞の出現傾向について調査を行なった。調査の結果、2000年代に収集された対面会話と2010年代に収集された対面会話では、特定の終助詞(「よね」)や終助詞が付かない言い切りの活用語終止形の出現傾向に関して違いがあるものの、携帯メール及びLINEチャットではそれらの要素に関して、対面会話とも違う形で出現傾向の違いが見いだされたり、対面会話よりも出現が少なかったりすることが明らかになった。これを踏まえそのような言語使用がなされる背後に、主要なモダリティ、記録性及びオーバーラップの有無、表示形式、既読表示といった機能的特性があることを考察した。

王 鑫

複合名詞,自動詞,意味役割,語構成

要旨

本稿の考察対象は現代日本語の「自動詞連用形+名詞」型複合名詞である。この型の複合名詞における前部要素と後部要素の多様な結合関係に注目し、まず、複合名詞をモノ類と行為類に分ける。そして、ガ格の格関係の有無とガ格の表す意味成分が複合名詞にどのように関与しているかによって、モノ類を「主体が出現するタイプ」「主体が隠れるタイプ」と「主体が関与しないタイプ」に分ける。さらに、動詞の表す動作・状態の内実に注目し、ガ格の格関係が成立しない類を「道具」「産物」「定着」に分けて考察した。行為類に関しては、二つの行為の意味関係によって、「行為の中の行為」「独立した行為」と「働きかけ」に分ける。最後に、各分類の特徴と「自動詞連用形+名詞」型複合名詞の全体図を示した。

菊地 そのみ・菅野 倫匡

和歌,勅撰和歌集,八代集,異本歌,底本,歌番号

要旨

近年は『日本語歴史コーパス』の公開・拡充により、これを利用した和歌語彙の研究も容易になりつつある。このコーパスは対象とする言語資料を電子化した上で検索に資する情報をアノテーションしたものであるが、コーパスを構築する際に依拠した底本とコーパス所収の本文との間に無視し得ない異同のあることは広く知られていないという現状にある。この異同について本稿は和歌語彙の研究を念頭に置き、留意する必要のある点を報告するものである。なお、この異同について本稿では実例に基づいて便宜的に4つのタイプに区分し、和歌集別に表として示した。

蔡 嘉昱

漢語,存在のあり方,副詞的用法

要旨

本論文は、「点々」を調査対象に、中国語と日本語のコーパス資料から用例を抽出し、両言語における使用状況を考察する。調査した結果、日本語における「点々」は、もの同士の位置関係(存在のあり方)を表す表現であることがわかった。一方、中国語における「点々」は位置関係ではなく、ものがどのように存在しているか(存在様態)を表す表現であることがわかった。

日本語においては、静的事象を表す表現にしても動的事象を表す表現にしても連用修飾語として働ける。それに対して、中国語においては、動的事象を表す表現でのみ連用修飾語として用いられる。

崔 競文

外来語,アクセント,フット,挿入母音,不可視性

要旨

日本語の外来語では、アクセント核が通常より前に前進するタイプが存在している。本稿では、この種のアクセント型に着目し、それが形成される仕組みについて分析する。前進型外来語のデータを考察した上で、語末挿入母音の占有率が高い数値を示すことを明らかにする。また、この点を踏まえて、異なる音節構造をひとくくりにし、そして同種の構造としてまとめられない軽音節だけからなる構造に対する分析を行う。以上の分析によって、語末挿入母音の不可視性が前進型アクセントの形成に影響を与えることを明らかにする。

白川 稜

終助詞,「わ」,「や」,体験性,認識即応性

要旨

本稿は、現代日本語で汎性的に用いられる終助詞「わ」について、コーパスにおける出現の観察を通じ、その機能及び用法を検討することを目的としたものである。文機能の観点から「わ」の出現に関し、終助詞「や」と同様、典型的には新たな認識を持つ認識即応的な文に出現すること、一方で「や」と異なり非認識即応的な文及び意向文にも広く出現することを観察した。その中でも「わ」は個人的観察等を通じ新たな情報が話者に導入されたという「体験」の内容を表現する際に用いられることを確認し、「わ」の機能を「体験性の標示」と位置づけた。またその派生として、聞き手の情報更新を求める反論的使用がされると指摘した。

孫 逸

日中対照,泣き,オノマトペ,使用実態

要旨

本稿は日中両言語における「泣き」に関するオノマトペの使用実態を調査し、その特徴を明らかにするものである。本稿では日中コーパスを利用して「泣き」に関するオノマトペの用例を収集し、それらの使用実態を調査した上で、「擬音語」「擬態語」の分布特徴と使用上の特徴における日本語と中国語との相違を明らかにした。また、具体的な用法について、日本語における「泣き」に関するオノマトペは、動詞と共起する用法に集中していることがわかった。中国語における「泣き」に関するオノマトペが、“的”“地”との後接用法に集中しているが、擬態語の方が、その助詞の後に付く語のバリエーションが見られる。

劉 玲