筑波日本語研究 第十七号

2013年01月31日発行

石田 尊

遊離数量詞,分配的解釈,VP quantifer,副詞節,主題コントロール

要旨

日本語の遊離数量詞には、分配的解釈を持ち、主名詞と構成素関係のような関係を構成しないものがある。これらは副詞的な遊離数量詞として見なされているが、本稿ではその解釈が、主名詞のθ役割に合致する実体を数え上げるものであること、また副詞的な遊離数量詞は文内に比較的自由に分布するが、その出現は主名詞のθ役割が必須度の高いものである場合に限られることを確認する。これらの観察結果について本稿では、副詞的な遊離数量詞は内部に空範疇の主語を備えた副詞節中の述部として現れ、かつこの空範疇は主節の動詞のθ役割をコントローラとする主題コントロールののPROであるとする分析を提案し、副詞的とされる遊離数量詞の振る舞いを統一的に説明する。

劉 剣

causal chain,単一事象,複雑事象,介在文,状態変化主体の他動詞文

要旨

本論文は、デ格とガ格を中心に、典型的な他動詞文からはみ出してしまう現象をcausal chainというアプローチを用いて分析するものである。非典型的な他動詞文は複雑事象を表す他動詞文であると提案し、この提案を用いて介在文、状態変化主体の他動詞文などの現象を統一的に説明した。

金 玉英

行為要求,勧誘,Weの形成,共同行為,誘い

要旨

「勧誘」の定義において、従来の研究では行為者、促し用法、運用論的条件などをめぐって揺れが生じていることを指摘し、今まで重要視されてきた「話し手と聞き手による共同行為」ではなく、「話し手と聞き手によるWeの形成」こそ「勧誘」の定義における最も重要な概念であることを主張する。そして、「勧誘」には「Weの形成」が「前提になる」ものと、それを「目指す」ものがあり、「Weの形成」には共同行為による「行為者としてのWe」だけでなく、「潜在的・心理的なWe」も含まれることを述べ、「勧誘」の定義と類型、「Weの形成」との関わり方を明らかにする。

石塚 直子

NV型複合名詞,和語サ変動詞,漢語サ変動詞,品詞認定

要旨

「名詞+和語動詞連用形」型複合名詞には「する」「をする、がする、にする」等がつくことができる。理論的な観点からは、それぞれの形式がどういった環境に分布しているのか、一通り説明がなされてはいるものの、使用実態に即した記述は必ずしも充実しているとは言えない。本稿では、「名詞+和語動詞連用形」型複合名詞に「する」がつくことができる和語サ変動詞を取り上げる。具体的には、3節でNV型複合名詞に「する」「をする、がする、にする」がつくかどうかについて「新聞」コーパスを利用し、調査を行う。その後、4節で調査結果を概観し、和語サ変動詞の持つ特徴や漢語サ変動詞との振る舞いの違い(例えば、「NV型複合名詞+格する」の中ではNV型複合名詞に「をする」がつくものが多いこと、「をする」「がする」ともにつく語が一定数ある(漢語サ変動詞には両方つく語はほぼ皆無)等)について触れる。続いて、漢語サ変動詞は「をする」をとる際に条件が生じるが、和語サ変動詞がその条件に適用できず、さらには実例があることを5節で示す。最後6節で本節の主張をまとめる。

劉 玲