筑波日本語研究 第十五号

2011年02月22日発行

橋本 修

従属節のテンス,相対補充連体修飾節,叙実性,ダイクシス時詞

要旨

本稿では、「準備」「効果」等にかかる、相対補充連体修飾節のテンスの振る舞いについて、「まえ」節・「あと」節のような時間関係(そのもの)をあらわす従属節とを比較し、異同を検討した。検討の結果、両者には、テンス形式(ル/タ形)の選択に関して制約を持ち、その制約の緩和条件にも類似したところがあるという共通点を持つ一方、叙実性に関する制約、可能なダイクシス時詞の出現条件に異なりがあることが分かった。「準備」「効果」等にかかる連体修飾節における叙実性に関する制約、可能なダイクシス時詞の出現条件(に関する制約)は、他の「外の関係の連体修飾節」における制約と共通のものと目されるので、「まえ」節・「あと」節のほうが、連体修飾節としては特殊であるということになる。

彭 玉全

頻度の副詞,事態,事態の時間的存在,事態の超時間的存在

要旨

事態の存在には、時間的存在と超時間的存在がある。事態の時間的存在は、頻度の副詞で表される。事態の超時間的存在は、「普通」「通常」「一般的に」などのような超時間的存在副詞によって表される。これらは、いずれも事態の存在の多寡を表すという共通点がある。本稿では、頻度の副詞と超時間的存在副詞を「事態の時間性」「事態の主体性」「副詞と文末表現との共起」「副詞と叙述類型との関係」といった4つの側面から比較し、この2種の副詞の性質・機能の相違点を検討した。

楊 卨郞

自他両用動詞,「~ている」形,過程性,結果性

要旨

本稿では、自他両用の漢語動詞を対象とし、受動文の「~ている」形が表すアスペクト的意味について考察する。自他両用動詞の受動文の「~ている」形は、「進行」と「結果」を両方とも表す動詞と、「結果」だけを表す動詞がある。同じ主体動作・客体変化動詞であるにも関わらず、受動文のアスペクト的意味に違いが現れる理由として、それらの動詞が持つ「過程性」と「結果性」の違いに原因があることを指摘する。「停止する」「実現する」のような動詞は「-過程性」「+結果性」の性質を持ち、「分解する」「解決する」のような動詞は「+過程性」「+結果性」の性質を持つことを論じる。

李 晶

『天草版平家物語』,『天草版エソポ物語』,授受動詞,本動詞用法,補助動詞用法

要旨

本稿は、『天草版平家物語』『天草版エソポ物語』に用いられる授受動詞の使用状況を明らかにしようとするものである。両資料における授受動詞(アタエル、クダサル、クレル、シンズル、タテマツル、タマワル、トラス、マイラス、ヤル)と見られる語彙を比べると、語彙は一致している。しかし、各語の意味や用法を見ると、両資料の間にずれがある。アタエル、クダサル、クレル、シンズル、タマワル、マイラス、ヤルについては両資料で用法に差が見られる。こうした差異からみると、『天草版エソポ物語』における授受動詞の用法のほうが現代日本語により近いと考えられる。

劉 剣

態,中間態,能動態,自発態

要旨

中右(1991)は「この肉は苦もなく切れる」のような受動的な可能表現に当たるものを中間態、「『ニュース・ヴィーク』の最新号はよく売れている」のような表現は自発態であるとしている。本稿は動作主と受動者という態の観点から、「売れる」文は自発態ではなく、もう一つの種類の中間態であると主張する。考察は「インテルはいってる」のような対象を主語にとる「はいる」文を中心に展開し、この種類の中間態が能動態や自発態とどう違うかを明らかにした。