筑波日本語研究 第十四号

2010年02月15日発行

矢澤 真人

ヲ格,自他認定,国語辞典

要旨

多くの国語辞典では、対象ヲ格が出現する可能性のある動詞を他動詞と認定する。ヲ格の出現の度合いは動詞によりかなり差があるため、国語辞典の自他認定には実態調査が欠かせないが、数多くの動詞を処理するためには、より簡略な手法が必要になる。動詞の直前にヲ格が現れる割合は、この目安にすることができる。

馬 小兵

方向,複合助詞,構文機能,意味

要旨

「に対して」「にむかって」「にむけて」などいわゆる「方向」を表す複合助詞は、統語上、意味上それぞれどのような共通点と相違点があるのか。「に対して」「にむかって」「にむけて」句は、どんな文の成分になるのか、また文のどの成分に関連するのか、さらに「に対して」「にむかって」「にむけて」句を含む文の主語、「に対して」「にむかって」「にむけて」に先行する名詞、「に対して」「にむかって」「にむけて」がかかる述語のタイプは、どうなっているのかなどを中心に、論を進めていく。

神永 正史

有生・無生性,文法性,動作パーフェクト,主体・対象変化動詞

要旨

日本語の大きな変革期にあたる中世末期は、テンス・アスペクトにおいても、表現する意味毎に形式が全て定まっているわけではなく、幾つかの用法で競合がみられる。

 本稿では、最初に、中世末期の口語日本語資料である狂言台本虎明本にみられる、アスペクト的意味を表す形式である「~てある」の各用法が、他のアスペクト・テンス形式である「~ている」や「~た」とどのように競合しているかをみる。次に、この競合が中世末期から近世前期にかけてどのような形に収束していくかを、同じ大蔵流宗家の台本である狂言台本虎寛本との比較を手がかりとし、近松の作品を資料にして考察する。その結果、この競合が近世前期のテアル構文に影響していることを明らかにする

彭 玉全

事態反復,動作連続,頻度の副詞,repetition,succession

要旨

反復表現には、事態反復と動作連続がある。従来、頻度の副詞は事態反復を表す副詞として位置づけられている。本稿では、副詞的成分の修飾対象、文における位置、時間空間的限定性といった面から考察し、頻度の副詞とされている「しきりに」「しきりと」「絶えず」「頻繁に」「時々」「時折」は、事態反復だけでなく、reptitionの動作連続にも用いられることを確認した。また、事態反復と動作連続の場合、副詞的成分によって修飾されている動詞句のアスペクト形式の出現の傾向をコーパスによって調査し、先行研究の指摘を検証した。最後に、事態反復と動作連続の相互関係を検討し、これらを表す副詞的成分の枠を提案した。

楊 卨郞

自他両用動詞,自他認定,自他対応

要旨

現代日本語の二字漢語動詞には自動詞と他動詞の両用法をもつ自他両用動詞が多数存在している。しかし、どのような動詞を自他両用動詞と認めるかについてははっきりした定義が定まっていない。本稿では、国語辞典において自他両用動詞がどのように分類されているか、また、国語辞典によって自他動詞の認定がどれぐらいゆれているのかを調査し、自他認定のゆれが見られる原因は「非能格構文vs対格構文」という自他対応にあることを示す。