筑波日本語研究 第十三号

2008年12月26日発行

橋本 修

言語事項,教科文法,母語話者への文法教育

要旨

国語教育の教育項目としての「言語事項」は、その性格が博物学的であり、たとえば理科第二分野に似ている。その特徴としては「その世界への(ゆるやかな)感覚(と興味)を養うことが主眼」「積み上げのためのスキルとしての薄さ(必須性の弱さ)」「(学習時点での)楽しみとしての普遍性の弱さ」「論理的思考の抽出のしやすさ」等が挙げられ、教材化・教室での指導にあたっては、それらの特徴に配慮する必要がある。

任 利

動機,中国語学習,因子分析,日本人大学生,アンケート

要旨

本稿では、アンケートを行い、量的なアプローチから日本人大学生の中国語学習に対する動機づけを探ることを目的とした。調査の結果を主因子法・プロマックス回転による因子分析を行い、「中国・中国人理解因子」、「仕事・資格獲得因子」、「語学習得因子」、「他者からの影響因子」、「国際性・将来性因子」、「交流の手段因子」、「他言語との比較因子」という7つの因子が抽出された。外国語学習動機づけに関する伝統的な分類としての「統合的動機づけ」と「道具的動機づけ」といった二分法と照らし合わせ、日本人大学生の中国語学習に対する動機づけの構成要素は以下のように分類できた。

  1. 統合的動機づけ:「中国・中国人理解因子」
  2. 道具的動機づけ:「仕事・資格獲得因子」、「国際性・将来性因子」、「交流の手段因子」
  3. 語学習得動機づけ:「語学習得因子」
  4. 他者からの影響動機づけ:「他者からの影響因子」
  5. 他言語との比較動機づけ:「他言語との比較因子」

特に、「語学習得動機づけ」、「他者からの影響動機づけ」、「他言語との比較動機づけ」は、日本人大学生の中国語学習に対する独特の動機づけであると考えられる。また、学年別各因子の得点平均値を比較し、t検定を行った結果、「他者からの影響因子」では、一年生の得点が有意に高かった。その他の因子では、一年生と二年生の差が見られなかった。同じく、男女別各因子の得点平均値を比較し、t検定を行った結果、「他言語との比較因子」では、男子学生の得点が有意に高かった。その他の因子では、男子学生と女子学生の差が見られなかった。今回の調査結果を分析することにより、日本人中国語学習の動機づけの多様さを指摘し、日本における中国語教育現状を明らかにし、今後効果的な中国語教育への示唆を探ることができた。

神永 正史

テアル構文,場所ニ格句,存在表現,単独他動詞文

要旨

現代日本語のアスペクト助動詞「てある」(以下テアルとする)を用いた「~テアル」の文が、意味的に存在文に近いことは幾つかの先行研究でのべられている。しかしながら、この両者の近さは全てのテアル文で一様というわけではなく、テアルに上接する動詞によって異なっているようである。本稿はテアル文のテアルに上接する動詞を、その語彙特徴から分類し、分類した動詞で構成されるテアル文毎に存在文との「近さ」を比較することにより、この近さの程度の違いをみていく。また、このことによって、テアル文の全体的特徴を明らかにすることを試みる。

彭 玉全

生起相修飾成分,生起相修飾成分の枠,生起相修飾成分の分類,副詞

要旨

本稿は、生起相修飾成分の機能、修飾対象、出現位置および修飾の奥行きといった側面から生起相修飾成分を再認定して、その枠を先行研究の枠より拡大した。しかし、「もう」と「まだ」を生起相修飾成分の枠から取り除いた。そして、生起相修飾成分と動詞のアスペクト形式との共起傾向から、生起相修飾成分をA類・B類に下位分類した。最後に、A類とB類の生起相修飾成分の「意図性」と「予見性」という素性を検討した。