筑波日本語研究 第十二号

2007年12月27日発行

那須 昭夫

オノマトペ,語尾,仲間分け,促音,共起特性,韻律調整機能

要旨

本稿では,日本語オノマトペに含まれる三種類の語尾の相互関係について考察する。従来,オノマトペ語尾はそれぞれ特有の音象徴機能を発揮しながら対等な鼎立関係をなしていると,暗黙のうちに考えられてきた。本稿ではこの認識に疑義を呈示し,語形評価テストによる統計的事実に基づいて,実際には語尾の分布の広さに顕著な偏りが認められることを明らかにする。また,韻律調整機能・擬音象徴機能・文章語的特性の三つの異なる軸により,三種類の語尾の間に「1項:2項」からなる仲間分けの関係が見出されることを論じる。

許 宰碩

しておく,hae nohda,hae duda,複合動詞化,意図性,人称制限,文法化

要旨

日本語の「しておく」と韓国語の「hae nohda」「hae duda」は準備を表すという点において,対応関係を成しているといえるが,詳細は異なる性質も有しており,その相違点を捉えるのは簡単でないようである。また,韓国語の「hae nohda」と「hae duda」の間にも相違が見られるが,これは本動詞の意味の違いから生じるものと考えられる。本稿では,補助動詞の「hae nojda」が複合動詞化して単一動詞として用いられる現象があり,そのため日本語の単一動詞に「hae nohda」が対応しやすい場合があると指摘する。また,「hae nohda」が非意図的な場面で用いられることが確認できる。さらに,「しておく」には人称制限があり,1人称主語に限られる現象が見られるが,「hae nohda」「hae duda」には人称制限が見られないことも指摘する。このような人称制限は,韓国語の「hae nohda」「hae duda」が日本語で訳される時,「しておく」ではなく,基本形や「してくれる」「している」「してしまう」などに訳されることを可能にしていると考える。

神永 正史

テアリ文,タリ文,限界性,動作主体,動作客体

要旨

アスペクト(=相)の助動詞「たり」は動詞連用形に接続する助詞「て」に動詞「あり」がついた「てあり」を原型とする。「てあり」と「たり」はこのような語形成上の関係にあるものの,例えば,平安中期の「たり」(以下タリと表記する)と「てあり」(以下テアリと表記する)とでは,同じアスペクトを表すにしても両者のもつ意味・機能には少なからず異なりが見られる。このタリとテアリの異なりは,タリが助動詞として機能する一語のものであるのに対し,テアリがテと存在動詞を源とする「あり」(以下存在の本動詞「あり」と区別してアリと表記する)の2つの部分が複合化されたものである,という形態上の違いから生じている。

テアリは上接動詞が動作を示すものか,変化を示すものか,目的語をとるか,とらないかなどにより意味・機能に異なりが生ずる。更に,目的語をとる動詞の限界性の有無によって,テアリの述べる対象が動作主体か動作客体かのどちらかに分かれる。また,動作客体について述べる文も,その文中の動作主体の扱いについては一様ではない。このようなテアリ文をテアリに上接する動詞の意味特性によって分類し,分類されたテアリ文の意味・機能とタリ文のそれとを比較して示そうとするのが本論の趣旨である。

楊 卨郞

二字漢語動詞,自他両用動詞,「させる」形,「される」形

要旨

現代日本語の二字漢語動詞には同一形態で自動詞と他動詞の両用法をもつ自他両用動詞が多数存在している。しかし,自他両用の漢語動詞のすべてが自動詞文と他動詞文の両方とも自由に成立するわけではない。自他両用の漢語動詞の中には,両用動詞とはいうものの自動詞用法または他動詞用法に制限が見られる動詞も少なくない。本稿では,自他両用の漢語動詞を典型的な自動詞・他動詞と比較しながら,「する」形と「させる」形,また,「する」形と「される」形の対応関係について考察を行った。その結果,自他両用の漢語動詞には自動詞用法が基本であるタイプと,他動詞用法が基本であるタイプ,また自動詞と他動詞の用法が同等に働くタイプの,三つのタイプに分けられることを明らかにした。