日本機械学会誌 Vol.95,No.887 1992/10
「造語」という言葉で表わされる内容には、二つの異なった操作が含まれて
いる。
ひとつは、新たに単語のもとになる造語要素(語基)をつくるもので、「語
形成」と呼ばれる操作である。例えば、「テクノロジー」とか「テクニック」と
いった単語を省略して、「テク」もしくは「テック」といった語形をつくるよう
なものである。もうひとつは、すでにある造語要素を組み合わせて新たな単語を
作り出す操作で、「語構成」と呼ばれる。「テク」を他の造語要素とを組み合わ
せて、「必勝テク」とか「合格テク」などの語を作り出すのがこれである。
さて、造語要素が「語構成」によって単語となるシステムは、ちょうど、単
語が統語規則によって組み合わされて文を作り出すシステムと並行的に考えるこ
とができる。
例えば、文に語順があるように、造語要素も前項になるか後項になるかとい
った位置の違いがある。先に触れた「テク」や「テック」は、後項に、「ハイ」
は逆に前項にくることが多い。「テクノ」と「テク」、「ハイテク」「ハイセン
ス」の「ハイ」と「合ハイ」「コークハイ」の「ハイ」は、意味や語形ばかりで
なく位置情報の違いも記述しておく必要がある。
また、単語に、自立語と付属語があるように、造語要素にも、単語全体の意
味の中心を表すか、他の要素の補助をなすかの違いがある。接頭語や接尾語は位
置と意味との二つから規定されるのである。
さらに、文に自由に組み合わされたものと、きまり文句など固定的な言い回
しとがあるように、語構成においても、比較的自由に組み合わされるものと、固
定的なものとがある。おなじ接尾語でも、「さ」と「み」とでは、「さ」が「厚
さ」「暑さ」のいずれもいえるのに対し、「み」は「暑み」とはいえない。「さ
」のほうが生産性が高いのである。同様に、漢字の造語要素でも、「妨」は、「
防風」「防水」「防腐」など二字熟語を構成するだけで、新たに「防〜」といっ
た単語を作り出すことは容易ではない。これに対し「抗」は、「抗戦」「抗力」
など二字熟語は「防」より少ないものの、「抗ヒスタミン」「抗がん剤」「抗菌
」など、新たな語を作り出す造語力は高く、生産的である。
ここで問題にする「超」も、「抗」と同様、最近になってきわめて造語力を
増した造語要素である。「超」は、ちょうど、明治期あたりから、役割の変化が
みられ、翻訳語の問題や漢字の造語力を考えるうえでも興味深い存在である。
「超」の用法は、形の上から、おおよそ次の3つに分ける事ができる。
一つは、「超越」「超過」など、二字熟語を構成しているものである。もう
一つは、「超高層」「超スピード」などのように、「高層」や「スピード」など
独立の単語につく、接頭語としての用法である。さらに、俗語的であるが、「ち
ょうかっこいい」とか「ちょすご」などといったように、強意の表現に用いられ
る。この3つの用法は、おおよそこの順に日本語に現れてきた。
まず、「超」のつく言葉がどれほど辞典や事典に採録されているかを見てみ
よう。
手元にあるいつくかの辞典類から、「超」のつく語を抜き出したのが
別表
である。
@ 『現代雑誌九十種の用語用字U』(1963)
A 『学研新世紀大辞典 第一版』(1968)
B 『1973年朝日現代用語事典』(1972)
C 『日本国語大辞典』(1975)
D 『現代新聞の漢字』(1976)
E 『岩波科学百科』(1989)
F 『新明解国語辞典第二版』(1976)
『同 第四版』(1991)
G 『現代用語の基礎知識1992』(1992)
H 『広漢和辞典』(1982)
@とDは、国立国語研究所の語彙調査で、@は90種の雑誌の1956年1月号
から12月号までを対象にした用語調査、Dは、1966年の朝日・毎日・読売各新聞
の一年分を元にした約200万語の用字調査である。
全部で200語あまり抜き出せるが、このなかには、「ちょう/ちょ」の用例
や「超昇寺」(寺の名)や「超勇」(軍艦の名)などの固有名が含まれるほか、
「超音速」と「超音速旅客機」、「超高速コンピュータ」と「超高速貨物船」の
ように、「超」を含む語がさらに複合したものがかなりあるので、「超」を含む
語としては、110語ほどがさしあたっての材料となる。
まず、「超」を含む二字熟語を見て行こう。「超越」や「超絶」「超脱」な
どの語は、古く室町時代や江戸時代の古辞書類にも採録されている。また、「超
過」や「超涯」「超過」「超然」なども、古典籍にしばしば見られる語である。
これらの語の多くは、元来、漢籍や仏典に見られる語であり、日本語における「
超」の造語法からはずして考えることができよう。先の表には含めていないが、
近代的国語辞書の先駆けともいえる『言海』(大槻文彦編:1889)には、「超過
」「超歳」の2語のみが採録されており、まだ、「超」の接頭語的な用法が辞書
に登録されるにはいたっていないことが知られる。
なお、二字熟語といっても、「超歳」や「超人」は、漢籍の明確な出典は明
らかでなく、漢籍由来の二字熟語とは一律に扱えない。「超歳」は新年の賀の言
葉に用いる語で室町期あたりから見られ、「超人」は、日本語ではどうも明治期
あたりから頻繁に用いられるようになったようである。実際、『大漢和辞典』の
「超」の項では、これらの語は立項されてはいるが、漢籍の明確な所在が示され
ていない。中国の『辞海』や『辞源』などの辞典でも、「超歳」は採録されてお
らず、「超人」は'{bermensch'、もしくは'superman'の訳語とされている。
さて、明治期は、西洋の新しい概念を導入し、積極的に漢語で翻訳した時代
であった。漢語からいうと、その造語力が遺憾なく発揮された時代であり、新し
い用法が生み出されるきっかけがもたらされた時代でもあった。しばしば例に出
されるが、「哲学」は新造語であり、「経済」は換骨奪胎して新しい概念を付さ
れた語である。「超」についても、「超卓」や「超絶」などは、漢籍に用法があ
るといっても、新しく概念が規定し直され、井上哲二郎編『哲学字彙』(初版1881,
再版1884,3版1912)などにも採録されている。また、「超出」や「超人」など
は、新造語のようである。
「超人」は、'{bermensch'の訳語として、高山樗牛や長谷川天溪、森鴎外な
どの著作に用いられているほか、'superman'に近い意味で森田草平の『煤煙』(1909)
などに用いられている比較的新しい語である。
「超人」という語が成立した背景には、「超」に次のような役割の変化があ
ることを示す。
一つは、その熟語全体が事物概念を表すようになったことである。本来「超
」は「越える」の意味であり、その二字熟語は、「超越」「超過」などのように
作用的な概念を表すか、「超世」「超俗」などのように状態的な概念を表すこと
が主であった。ところが、「超人」は、常人を越えるある事物(人)そのものを
表すのである。
つまりこれは、「超○○」で、作用的や状態的な概念を表す「超伝導」や「
超高速」などの(従来の)用法ばかりでなく、「超ジュラルミン」や「超ドイツ
」「超訳」などのように、度が過ぎた内容をもつ「事物」を表す用法や訳語を許
容する素地ができたということである。
もう一つは、'{ber'や'super'の訳語として意識されることによって、接頭
語的な用法が生み出され、「超」+「○○」という分析が容易になったことであ
る。実際に、二字熟語に「超」がついた「超自然(的)」「超経験(的)」など
も、島村抱月や夏目漱石、西田幾太郎などの著作に見られるようになる。
「超」+「○○」と区切られて、接頭語として意識されると、次いで、後項
にとる語の語種の変化が生じる。一般に、「3人(さんにん)」と「みたり」、
「2本」と「ふたくし(2串)」、「ご親切」と「おやさしい」のように、漢字
の接頭語や接尾語は漢語につきやすく、和語の接頭語や接尾語は和語につきやす
い。外来語は、その機能上、漢語に近いこともあって、すぐに、「超スピード」
のような用例が、真船豊や武田泰淳などの作品にみられるようになる。しかし、
和語に「超」がつくのはなお抵抗が大きいようで、先の辞書類では、わずかに、
「超仕上げ」「超ひも理論」の2語が採録されているに過ぎない。これら語にし
ても、極めて熟さない語形に感じられるがいかがだろうか。
漢語の接頭語は和語と結びつきにくいと述べたが、漢語でも、程度表現のい
くつかは、和語と結合されることがある。「極(ごく)うすい」とか「激辛(げ
きから)」などである。
「極」は、「極上」のような固定的な用法から、「極貧乏」や「極内々」「
極太」など、情態的な意味を持つ漢語や和語の語幹につく用法が江戸期以降徐々
にみられるようになる。明治期には「極の正論」「極の懇意」など、「極の」の
形で、程度表現として頻繁に用いられ、このいきついた形が「極うすい」のよう
な副詞的な用法である。
「激〜」も、「激怒」「激流」のような固定的な用法から、「激写」という
接頭語的な用法が新たに作られ、和語の語幹に付く「激辛」まで来た。そのまま
発展していけば、「激辛い」のような用法もみられたであろう。
「ちょださ」や「ちょうださい」もまったくこれと同じであり、程度表現と
しては、基本的な語構成のルールからさほどはみ出すものではない。
「ちょださ」や「ちょうださい」は、漢語と和語の結合という点で、まだ抵
抗のある人がすくなくないだろうが、「超○○」で事物そのものを表す用法は、
それが漢語か外来語であれば、ほぼ許容されるようである。かつて、いわゆる「
○○マン」のシリーズで、「超獣」という言葉が用いられていた。通常の「獣」
に対して「怪獣」があり、さらにそれよりすごいものとして「超獣」が成立した
のである。この伝でいけば、「スーパーマン」は単なる「怪人」よりすごいので
あり、「超訳」も「怪訳」よりすごいということになる。
事物表現を許し、単なる程度表現となっていることで、現在「超」の生産性
は極めて高くなっている。ここから、いわずもがなのことではあるが、次の2つ
の問題が出てきている。
ひとつは、「超」より「すごい」ものをなんで表すかである。あるピザのチ
ェーン店では'Super Supreme'という品がある。「並」を「Supreme(豪華版)」
と名付けてしまったために、「超豪華版」の'Super Supreme'を作らざるをえな
かったのである。現在、「超」よりすごいものを表すのに、「超超」「極超」な
どの語がみられるが、このような用語では当然きりがないのである。
もうひとつは、単に「すごい」ことを表すのに「超」が用いられることから
、なんらかの特定の概念を表す「超」が単に「すごい」と解釈されてしまうとい
うことである。ニーチェの「超人」も「怪人」と同列に扱われてしまうのである
。先日、国語審議会でカタカナ語が問題にされたが、「超」のように一般には単
なる程度表現として用いられている語は、専門語では避けて、カタカナ表記のま
まとするのもひとつの見識になるかもしれない。
訳語として「超」になにが当てられるかが一定していないこともこれを助長
している。'trans / ultra / hyper / super / very / upper / micro'のいずれ
も「超」である。
以上、簡単ではあるが、日本語の造語法と「超」をめぐる問題にふれた。
ちょ G
ちょーかっこいい G
ちょこみ G
ちょすご G
ちょださ G
ちょむかっ G
ちょらく G
極超音速航空機 G
極超音速地下鉄 G
極超音速旅客機 G
極超短波 G
受超 @
超 @A F
超LSI E G
超インフレ G
超インフレーション G
超ウラン元素 ABC E G
超ジュラルミン C
超スター D
超スピード C
超ドイツ G
超ひも理論 G
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超異 H
超逸 C H
超越 A CD F H
超越関数 C
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超越的 C
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超過福増 C
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超過利潤 A C
超階 H
超涯 C H
超涯不次 C
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超幾何分布 C
超記憶 G
超技術社会 G
超距 H
超巨星 A C E G
超極細繊維 G
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超勤手当 C
超均衡予算 C
超銀河集団 G
超銀河団 E
超群 C
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超軽量動力機 G
超弦理論 G
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超構造格子素子 E G
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超高周波トランジスタ G
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超自然主義 C
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超自動化船 B G
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超重戦車 C
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超昇寺 C
超乗 C H
超辰 H
超心理学 A C
超新星 AB E G
超新星1987A G
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超人格 C
超人間的 C
超人主義 F
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超絶哲学 C
超絶論 C
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超然主義 C
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超対称粒子 G
超耐熱合金 C G
超大規模集積回路 G
超大型景気 G
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超伝導コイル E
超伝導セラミックス E
超伝導材料 E
超電気伝導 BC
超電導 C G
超電導エネルギー貯蔵システム G
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