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筑波イギリス文学会

29/08/2003

◆平成15年度例会報告◆

去る8月29日(金)午後2時より、筑波大学人文社会学系棟にて本年度の例会が開催され、木谷、永橋の二氏による口頭発表がありました。発表者自身による要旨は以下の通りです。

◆要旨◆

The Syncretic Mythography in Shelley's Prometheus Unbound

「シェリーの『解放されたプロミーシュース』

における混合的神話主題」

発表者 木谷 厳

コメンテーター 帯広畜産大学専任講師 齋藤 一氏

P. B. シェリーの『解放されたプロミーシュース』に散在する「エロス」 (“Love”), 「バッカス」のイメージの使用法に着目し、シェリーのプロメテウス神話の中に体系的に浮かび上がる、従来の批評において看過されてきたオルフィック教神話の痕跡を顕在化させることを試みた。シェリーの詩には、二十世紀中葉に主流であったプラトニズム的解釈から逸脱する面があるが、この逸脱するイメージについて、R. G. ウッドマンとS. カランは、古代ギリシアのオルフィック教神話の影響を指摘している。しかし、両者ともオルフィック教神話の観点から『解放されたプロミーシュース』の具体的なテクスト分析を十分に行なっているとは言い難い。そこで本発表では、上の先行研究を踏まえつつ、このギリシア神話を主題としたテクストに、十八世紀のギリシア文化再復興という文化的背景の中でシェリーの同時代人トマス・テイラーによってはじめて体系的な英訳がされたオルフィック教神話の影響がみられると推測した。そして『解放されたプロミーシュース』のテクスト分析と以下の同時代テクストからの引用との比較によってそれを検証した。まず、シェリー訳によるプラトンの『饗宴』からは、シェリーがエロスを全て “Love” と統一していた事実とフィードレスによるエロスに関する演説を、テイラー訳『オルフェウス讃歌』および論文『エレウシスとバッカスの秘儀』からはエロス(ファーネス)とバッカスの説明を、そして、シェリーの書簡からは彼がオルフィック教に興味を抱いていた事実を、また、友人ピーコックによる物語詩『ロードーダフニ』の注釈にあるオルフィック教的なエロスの説明について、最後にイタリア在住中の美術鑑賞ノートにあるバッカス像への感想を比較考察した。以上の考察をもとに、『解放されたプロミーシュース』に内在するオルフィック教神話をめぐる言説を再確認し、これを補強した。  


Self-autonomy and the Struggle for Ownership in Coriolanus

発表者 永橋 知明

コメンテーター 常盤大学専任講師 真部 多真記氏 

シェイクスピアのCoriolanusの主人公であるケイアス・マーシャスの“self-autonomy”としての存在は、これまで精神分析学的に、社会経済学的に研究され、貴族政治の絶対性、また、マーシャス自身の独裁制を示すものとして論じられてきた。しかし、マーシャスの“self-autonomy”としての存在が、ローマ国内における政治的権力闘争の中で劇の進行とともに他との関係性の中で創られていくものと考える。本発表の目的は、その過程を論じることで、マーシャスに担わされた“self-autonomy”性がこれまでの研究とは異なり、抑圧者からの政治的自由を示すものであることを明らかにすることであった。

Coriolanusは敵対する貴族と護民官の権力闘争を描いた劇であり、彼らはマーシャスに干渉し、マーシャスの立場、状況を自分達に都合良く解釈し、利用することで、市民を動かし、自分達の目的の達成を試みる。マーシャスは貴族によってローマの英雄として、また、護民官によってローマ市民の敵として築き上げられていく。こうした劇の政治的背景を明らかにするとともに、名誉という概念を考察することで、ローマ国内において与えられる名誉を求めず、彼自身に内在する名誉のみを求め、他との関係性を拒む“self-autonomy”としてのマーシャス像が浮き彫りとなってくる。マーシャスに築き上げられていく“self-autonomy”は貴族、護民官からの政治的干渉を避けるために、権力闘争の中で自らの所有権が彼らに奪われることを、そして、他人によって自分が所有されることへの恐れを示している。Coriolanusという劇は、マーシャスに築き上げられていく“self-autonomy”を通して、他からの強制を伴わず、自由に自分自身の支配者として行動、選択をできる自由を描き出しているのである。

 

◆総会報告◆

8月29日の例会では本学会の総会も開催されました。まず、会計より平成15年度会計報告があり、監査の後、承認されました。また、平成16度新役員の選定を行いました。新役員は以下のとおりです。 

総務:木谷厳 会計:永橋知明

通信:加藤行夫、蜂巣桂

編集:加藤行夫、今泉容子、佐野隆弥、大熊榮、

木下誠、後藤隆浩、菱田信彦、木谷厳、高橋美沙

(敬称略) 

 

 ◆『筑波イギリス文学第9号』について◆

締め切りは11月30日です。現在、3名の方から執筆予定のご連絡を頂いています。年内には会員の皆様にお届けできるよう、編集作業を進めております。 

◆会費納入のお願い◆

今年度の会費納入をお願い致します。年会費は4000円です。会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願い致します。郵便振替(00310-4-43883)にてご送金下さい。 

筑波イギリス文学会

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茨城県つくば市天王台1−1−1

文芸・言語学系イギリス文学研究室内


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