芝居、命 Marvin Rosenberg: The Adventures of a Shakespeare Scholar: To Discover Shakespeare's Art  言わずと知れた The Masks シリーズの著者による新刊、というより、"Making of The Masks" といった楽屋話としても読める過去40数年間に行なった学会発表30編の記録。 全体は4つの Parts に分けられているが、Part 1の "Character as Mainspring in Shakespeare" とPart 2の "Shakespeare's Mastery of Dramatic Poetry" に計26編が収められていることからして、Rosenbergの関心はもっぱらこういった言葉で表わせる(極めて伝統的な)主題にあると知れる。そして、この2つも基本的には同一の演劇観──シェイクスピア劇には豊かな人間性をたたえた人物がたくさん登場し、それらはすべてシェイクスピアの類いまれな才能が生み出したもの──に支えられている。この懐かしくも甘美な牧歌的トーンは30編のどれにも等しく奏でられているが(初期の "In Defense of Iago"、最新の "Poor Richard III", "Hamlet's Spiritual Crisis" というタイトルだけからも伺える)、その典型例を見てみよう。  "Subtext in Shakespeare"(1981)でRosenbergが「サブテクスト」という概念に意味させるのは、登場人物(あるいは役者)の内部に潜む生命、といったもので、外面に現われた行為は「仮面」にすぎない、その背後に何があるかを鋭く見てとるのがシェイクスピア劇の正しい鑑賞法ということになる(例のシリーズに「仮面」というタイトルをつけた所以だろう)。それはスタニスラフスキー流の「内的ヴィジョン」を探ること、とまで断言してしまうとシェイクスピアの単純な近代劇化という批判は免れない。ただ、まったくの空白から勝手に想像するのではなく、全体の流れの中で関連づけながら "extrapolate" する(中間を埋める)のだ、ということであれば、一応無難な(それだけに当たり前の)劇のダイナミズム論として読める。かと思うと、ダンカン殺害直後のマクベス夫人の強気の言動を(後に夢遊病として発現する)恐怖の裏返しととったり(解釈者次第の恣意性はないか?)、コーディリアの "Nothing" を深い愛の "subtext" として聞いたり(彼女は愛をtextualに語っているのでは?)、"excessive extrapolation" の危険性を著者も承知の上なのだが、やはりこの種の(ブラッドリー流の)人格論は納得させられない点が多い。もっとも、ガートルードには実は亡霊が見えていた(それでいてあえて打ち消した)のだという解釈など、実際の上演の可能性として提起された例にはおもしろいものがある(おもしろさは良き上演の一要素という意味で)。  マクベス夫人には少なくとも子供がひとり(それも男の子が)いた、と始まる "Lady Macbeth's Indispensable Child"(1974)は、その子の実際の存在が、マクベスの内的・外的闘争と密接な関係にあると論ずる。この劇には父子の組み合わせがいくつか設定されているが、父が自分の子のために他の父(と子)を殺すという展開として読めば(として読めば、という恣意性)、マクベスの子供は不可欠になる。マクベスが魔女の予言のうち、バンクォーの子孫が王になるという言葉を強く恐れたのは、マクベス自身の子供の王権を案じてのことだった。そうでなければ(つまり、子供がいないのなら)自分が天寿を全うした後に誰が王になってもかまわないはずだ。という次第で、舞台上にはマクベスの赤子が入った揺りかごが置かれることになる。それをのぞき込みながら(この子の将来に思いを馳せ)、マクベスは夫人の叱咤激励に徐々にダンカン殺しの決意を固めて行く(という上演も確かにおもしろいものではあるだろう)。  この本は要するに、理論的な詰めで説得するよりは、ひたすら作品に向けた情熱で圧倒する、意地悪く言えば、議論にならない、好意的に言えば、小賢しい批評を超えた、揺るぎない芝居好きの書、ということになる。  興味深いのは、むしろ "Epilogue" に記された「いかに本を書くか」の秘伝。まず、急がないこと、決して締め切りを設けないこと(!)。吸収し尽くすまで作品とともに生きること(彼自身はMacbethに8年、Hamletに12年)。そして、ありとあらゆるところから手当たり次第に情報を集めること。すでに4大悲劇が出ているThe Masks の、Antony and Cleopatraの準備が現在進行中で、これまで同様、時間をかけ、上演についての情報を得るため各地を訪れ、人に聞き、いわば足で稼いできたRosenbergは、立ち止まることなく、老いてなおたくましく "Adventures" を続けている。 (Univ. of Delaware Press, 1997, 365 pp., $52.50) ──加藤行夫