筑波イギリス文学会
25/08/2006
◆平成18年度例会報告◆ 去る8月25日(金) 午後2時00分より、筑波大学人文社会学系棟にて本年度の例会が開催され、木下、木谷両氏による口頭発表がありました。発表者自身による要旨は以下の通りです。
P. B. シェリーのオジギソウ表象をめぐる "sensitivity" と "vital principle" について 発表者 木谷 厳 (筑波大学大学院博士課程) コメンテーター 村山敏勝氏 (成蹊大学)
『フランケンシュタイン』序文でも触れられているように、生気論的なものに対するP. B. シェリーの関心は、 「オジギソウ」という詩にどう関わるのか。当時この植物は、神経と電気の相関をめぐる研究実験に用いられてもいた。詩の第二部とその結論部を中心に、新たな解釈の可能性を示した。 まず、第二部における、植物の園を維持する女性 "Lady" をめぐる比喩に着目した。この女性は、庭全体に生気を満たす源泉として、生気論的な比喩で描かれる。ゆえに彼女の死は、三部での庭園とオジギソウの死をもたらす。また、女性がオジギソウの夢を経て登場し、また蝶のさなぎを指す「生まれる前の墓」という特異な隠喩の後に死すことから、彼女の実在は、夢/現実、生/死の対立項の中で曖昧になっている。この曖昧さは、結論部の主題となる仮象/実在の曖昧さと結合し、この詩の形而上学的な読み、すなわち女性や庭園とその美(=想像力の源泉)は人間の「感覚器官 "organs"」 を超えて存在し続けるという伝統的な読解の根拠となる。 しかし、女性の死を悼むオジギソウの描写をもとに、"sensibility" の二重性(精神/身体)を突き詰めると、想像力(精神、魂)は人間を超越して存在するのではなく、この 「感覚器官」 にこそ宿るという、唯物論的生理学の言説―シェリーの知人W. ローレンスの説―が浮上する。このとき、結論部で主張されている仮象/実在の曖昧さは、形而上学的 (生気論的) なものへの賞賛と同時に、それに対する唯物論的なアイロニーにもなる。この現象は、さらなる資料調査によって、魂(精神)の所在をめぐる当時の生理学上における認識論的な切断と結びつく可能性も示唆している。
研究経過報告: 第一次大戦の身体論―― "Nottingham and the Mining Countryside" (1930)をめぐって 発表者 木下 誠 (東京成徳大学) コメンテーター 齋藤一氏 (筑波大学)
D.H.ロレンス最晩年のエッセイ「ノッティンガムと炭坑のある田園地帯 」では、「本物の都市」とそこに住まう「本物の市民」による「新しいイングランド (a new England)」形成のヴィジョンが語られている。本発表では、この都市論および共同体再生論の歴史的な意味を、第一次大戦と戦後再建の諸問題につなげて考察した。議論のポイントは以下のとおり――(1)再生されるべき失われた共同体は、かつての炭鉱労働者と第一次大戦の兵士(ロレンスはそのいずれでもない)との類似性、つまり炭坑と塹壕の空間的類似、炭鉱労働者たちと兵士たちの身体的ふれあいの類似(Lady Chatterleyの"tenderness"は戦場での男同士の身体接触体験に基づいている)から想像的に立ち上げられる。(2)帰還兵を戦後イギリス社会に受け入れる=戦後のテクストに繰り返し書き込むことの問題。(3)中流階級批判あるいは資本主義批判と女性嫌悪の言説の連動。(4)「本物の都市」賛美と郊外批判。(5)エッセイ前半の階級分析が、後半の均質な「本物の市民」の共同体立ち上げへと移行する際のレトリック(「美」の重視など)の政治性(ファシズムへ?)。(6)エッセイ最後の都市ヴィジョンと、同時代の都市論や大戦間期の"Englishness"をめぐる議論("Little Englandism"など)、批評家David Matlessが指摘する "progressive preservationist"としてのモダニズムとの関係。
◆ 総会報告 8月25日の例会では本学会の総会も開催されました。まず、会計より平成17年度会計報告があり、監査の後、承認されました。また、平成18度新役員の選定を行いました。新役員は以下のとおりです。
総務:佐藤千尋 齋藤一 会計:柄澤佳乃子 通信:加藤行夫、佐藤千尋、柄澤佳乃子 編集:加藤行夫、今泉容子、佐野隆弥、大熊榮、 末廣幹、清水純子、村山敏勝、佐藤千尋、齋藤一 (敬称略)
◆ 「筑波イギリス文学会メーリングリスト」について
先の総会では、通信手段に関して、例会のお知らせなど連絡業務の簡略化と効率化、および環境保全を目指し、従来の郵便からメーリングリストへの移行を推奨することが決定いたしました。メーリングリストに加入をご希望の方は、下記のアドレスまでメールをご送信下さい。皆様のご協力をお願い申し上げます。 engsociet@gmail.com
◆会費納入のお願い◆ 今年度の会費納入をお願い致します。年会費は4000円です。会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願い致します。郵便振替(00310-4-43883)にてご送金下さい。 〒305―8756 茨城県つくば市天王台1−1−1
文芸・言語学系イギリス文学研究室内 |
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