筑波イギリス文学会
26/08/2005
◆平成17年度例会報告◆ 去る8月26日(金) 午後2時30分より、筑波大学人文社会学系棟にて本年度の例会が開催され、末廣、齋藤の二氏による口頭発表がありました。 発表者自身による要旨は以下の通りです。
◆要旨◆ 研究経過報告: 柳瀬尚紀訳『フィネガンズ・ウェイク』におけるアイヌ語地名について 齋藤一(筑波大学)
James Joyce, Finnegans Wake (1939)は柳瀬尚紀(北海道根室市出身)によって『フィネガンズ・ウェイク』として邦訳されたが、毀誉褒貶が激しいことは周知の通りである。その一因として、アイヌ語に由来する北海道の地名が多用されていることもあるかもしれない(約40カ所)。例えばイアウィッカー一族の出身地Sidleshamは「斜里」、Louthは「羅臼」(いずれも知床半島の付け根にあたる町名)、そしてDublinは「根室」として翻訳されている。北海道の地名に詳しくない「内地」の読者が困惑するのも無理はないであろう。しかし、英語とゲール語の闘争の場であるアイルランドの多言語状況の表現でもあるFinnegans Wakeを邦訳するにあたって、日本語とアイヌ語の闘争の場である北海道の多言語状況を参照することは極めて真っ当な行為だと言うべきである。
アンボンで何が起こったのか――17世紀イングランド演劇における〈東インド〉表象の変遷を読む―― 末廣 幹 (専修大学)
過去20年以上にわたってシェイクスピアの『テンペスト』を対象とするポストコロニアル批評は豊かな成果も生んできたが、〈大西洋〉パラダイムの過度の前景化は、イングランドの植民地主義の展開にとってもうひとつの重要な拠点であった〈東インド〉の後景化という弊害も生み出している。そこで、本発表では、17世紀イングランドの〈東インド〉表象の変遷を検証することで、既存のパラダイムの修正を試みた。1621年に初演されたジョン・フレッチャーの悲喜劇『島の王女』は、香料諸島を舞台としながらも、イングランド人とオランダとの対立を直接表象するのを回避している。その後、1623年には、オランダ人がイングランド人を処刑するというアンボン虐殺事件が勃発するが、事件の記憶は長く封印されることになった。しかし、第一次英蘭戦争以降、イングランドが三度にわたってオランダとの戦争に突入するたびに、この事件は、反オランダ意識を高揚するための、〈国民的トラウマ〉として利用されるようになった。第三次英蘭戦争中の1673年に初演されたジョン・ドライデンの悲劇『アンボン』は事件を初めてドラマ化した演劇であるが、事件の記憶を呼び覚ますことで反オランダ意識を呼び覚ますプロパガンダであっても、〈東インド〉における拡張主義を称揚したテクストではなかった。
総会報告 8月26日の例会では本学会の総会も開催されました。まず、会計より平成16年度会計報告があり、監査の後、承認されました。また、平成17度新役員の選定を行いました。新役員は以下のとおりです。
17年度役職 総務/会計: 木谷 厳 通信: 加藤行夫、木谷 厳 編集: 加藤行夫、今泉容子、佐野隆弥、大熊榮、末廣幹、菱田信彦、村山敏勝、木谷厳 (敬称略)
◆ 『筑波イギリス文学第十号』について 締め切りは12月30日です。現在、3名の方から執筆予定のご連絡を頂いています。本機関誌も記念すべき第十回目の節目を迎えることとなりました。奮ってのご投稿をお待ちしております。来年2月中には会員の皆様にお届けできるよう、編集作業を進めてまいります。
◆会費納入のお願い◆ 今年度の会費納入をお願い致します。年会費は4000円です。会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願い致します。郵便振替(00310-4-43883)にてご送金下さい。
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