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筑波イギリス文学会

10/09/2002

◆平成14年度例会報告◆

去る8月30日(金)午後2時より、筑波大学人文社会学系棟にて本年度の例会が開催され、蜂巣、黒瀬の二氏による口頭発表がありました。発表者自身による要旨は以下の通りです。

◆要旨◆

A Laodicean
――Gothic建築を舞台とした個人的価値観の追求――

蜂巣 桂

トマス・ハーディの青年期における建築家としての経験が、後の執筆活動に色濃く影響していることに注目し、彼の中期作品であるA Laodiceanの中の建築、特にゴシック建築の描写が持つ意味を、登場人物達の性格描写との関係で探る。建築における多くの様式に対して登場人物達が困惑する態度は、登場人物達自らのアイデンティティの揺れと密接に結びついていることを示している。さらに、登場人物達がゴシック建築の城を修復することで、アイデンティティの位置付けを模索し、自己の確立をなそうとする姿勢も伺える。ゴシック建築と自己を密接に結びつけたことで得ようとするものは、ゴシック建築が持つ "living power" であるが、主人公が「もはや建築には生き生きとした力がない。」と言及しているように、彼らは建築から生き生きとした力を手にいれることができない。むしろ、ゴシック建築と自己の関係において、自らの発言と実際の行動とが合致しない状態を作り出し、精神的腐敗状況を生み出している。このようなゴシック建築と自己を結びつけようとした傾向は、ハーディの生きたヴィクトリア朝中期から盛んになった社会的現象ゴシック・リヴァイヴァルと関連性があるであろう。ラスキンは、著作The Stones of Veniceの中で、社会に溢れかえる様々な建築様式を非難しているのではなく、腐敗している倫理的状況に問題があると述べ、また、ハーディがよく言及するピュージンは、建築の腐敗は人間の信仰の腐敗に通じると言って、ゴシック建築を擁護している。こういった時代背景とハーディのA Laodiceanに見られる建築とモラリティの在り方は、さらに検討していく必要があるだろう。


"Blutbrüderschaft"と「ウルニング」
――『恋する女たち』におけるドイツ同性愛解放運動――

黒瀬勝利

今回の発表の目的は、D. H. ロレンスの小説『恋する女たち』における同性愛表象が、当時の同性愛に関する様々な言説のうち、特にドイツにおける同性愛解放運動と関係をもつ言説に大いに支持されていることを明確にし、その特徴と歴史性を考察することであった。
「血の盟約」 (Blutbrüderschaft) によって結び付けられるバーキンとジェラルドの関係は、積極的かつ肯定的に解釈されうる同性愛関係であり、それは肉体的・官能的性質を排除するものではなかった。しかしこのような関係が可能になったのは、それがもう一つの同性愛関係、つまりレルケとライトナーの頽廃的な関係と対比的に表象されることにより、ソドミー化される危険と女性化される危険を巧みに回避することができたからであった。このような二つの同性愛関係を同時に表象した『恋する女たち』というテクストを、当時のドイツにおける同性愛解放運動との関連で、さらにはそれを「輸入」したエドワード・カーペンターの『中間の性』との関連で見た場合、そこに表象された複数の同性愛関係が、当時の同性愛に対するアンビバレントな姿勢を表出していると解釈することが可能となった。具体的にいえば、『恋する女たち』というテクストは、ドイツの法学者で同性愛解放運動の先駆者ウルリヒスとその影響下にあるカーペンターの言説、つまり同性愛擁護という立場をとりつつも、同性愛をソドミーとの差別化という過程を経て二分化したのち、一方を「ウルニング」による関係として理想化し、他方を優性思想的にまたミソジニックに他者化し、最終的には両者のあいだの境界線を明確に引いていくという言説によって支えられていると考えることが可能となったのである。

◆総会報告◆

8月30日の例会では本学会の総会も開催されました。まず、会計より平成13年度会計報告があり、監査の後、承認されました。また、平成14度新役員の選定を行いました。新役員は以下のとおりです。

               総務:黒瀬勝利、木谷厳
               会計:真部多真記、立石かほ里、永橋知明
               通信:加藤行夫、西原幹子、蜂巣桂
               編集:加藤行夫、今泉容子、佐野隆弥、大熊榮
               吉原ゆかり、末廣幹、齋藤一、中山徹、立石かほ里
                                        (敬称略)

◆『筑波イギリス文学第8号』について◆

締め切りは10月31日です。現在、5名の方から執筆予定のご連絡を頂いています。年内には会員の皆様にお届けできるよう、編集作業を進めております。

編集担当 立石かほ里

◆会費納入のお願い◆

今年度の会費納入をお願い致します。年会費は4000円です。会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願い致します。郵便振替(00310-4-43883)にてご送金下さい。

筑波イギリス文学会

〒305―8756

茨城県つくば市天王台1−1−1

文芸・言語学系イギリス文学研究室内


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