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筑波イギリス文学会 19/09/2000

◆平成12年度例会報告

去る8月30日(水)午後1時より、筑波大学人文社会学系棟にて本年度の例会が開催され、立石、末廣、佐野の三氏による口頭発表がありました。発表者自身による要旨は以下の通りです。

「労働者階級から民衆へ――George OrwellのOral-Written Style――」
立石かほ里

体制側が民衆をコントロールする手段として描き出した音声言語の影響力を、Orwell自身がWriting活動をする際に、どのように利用していったのかという視点から、Orwellの言語論を踏まえた上で、Animal Farmの元原稿(1945)とそれを放送台本化した第二のテクスト(1947)を比較分析する。そこでAnimal FarmのNarrative Styleに表されたOrwellの'Oral-Written' Languageの在り方と、それが排除していくことになる階級的烙印としてのアクセントという問題を指摘し、アクセントによって差異化される労働者階級と民衆の姿をAnimal Farmの放送台本の農夫と動物達として読みこんでいく。階級的に透明な言語、'Oral-Written' Languageと、ニュートラルに想定される聴衆=民衆という概念の中で、民衆が語る声をOrwellはどう捉えるのか、さらなる問題提起をおこなう。

「“The Great Rebuilding”再考――ジェイムズ朝文化における空間表象についてーー」
末廣幹

発表では、“The Great Rebuilding”という術語を広義にジェイムズ朝におけるロンドンの都市開発がどのように文化変容に影響を及ぼしたかを考察するために、ベン・ジョンソンの『エピシーン』(1609年)の空間表象に焦点を当てた。ロンドンの都市開発の結果、後に「ウェストエンド」となる地域は、シティとは異なるファッショナブルな「タウン」としてジェントリーらの憧れの場所となりつつあった。ストランド周辺を舞台にした「最初のウェストエンド喜劇」である『エピシーン』は、「タウン」と「シティ」とを対立させ、「シティ」に浸食される「タウン」の不安をドラマ化している。最新のファッションに身を固めたナイトらが実はシティの商品の寄せ集めでしかないことを笑い者にするというこの芝居の陰謀は辛辣なものであり、チャールズ朝のウェストエンド喜劇とは一線を画するこの芝居のラディカルな特徴を示している。

「ヘンリー八世表象の行方:1593-1613──変わりゆく政治状況と演劇環境の中で──」
佐野隆弥

エリザベス朝演劇における英国史劇の展開を辿ってゆくと、17世紀に入ったあたりから質量両面において、大きな変化が生じていることに気付かされる。歴史劇の総数の急激な減少という量的な面に加えて、質的な面では、エリザベスやヘンリー八世など同時代の君主が中心人物として設定され、またドラマの歴史に対するスタンスもプロテスタンティズムへの傾斜が観察されうる。この現象は君主表象の政治的危険性という視点から基本的には説明できるが、本発表ではこのことを、ヘンリー八世の治世に焦点を当てた4つの作品を通して分析した。エリザベスの在位中に執筆されたSir Thomas More(1593) およびThomas Lord Cromwell(1600)では、ヘンリー八世が舞台上に現前することはないばかりか、国王至上法や英国国教会の設立といったエリザベス体制の根幹に関わる政治事項の表象も極力抑制されており、主人公モアとクロムウェルの人格面が作劇上強調されている。生身のヘンリー八世が舞台に姿を現わすのは、ジェイムズ朝期の劇When You See Me You Know Me(1604) が最初である。しかしここでのヘンリー八世はステレオタイプの域を出ず、またドラマトゥルギーそのものも、同時期の歴史劇と比較して古めかしいものを採用している。シェイクスピアのHenry VIII(1613) は、従来ヘンリー八世像の希薄さや歴史的ヴィジョンの不備が指摘されてきた。これは、シェイクスピアが先行作When You Henry See Meを真正な政治劇化する際、ヘンリー八世ものの伝統に乗りながら、同時に1590年代に自身が使用した既存の歴史劇の手法を再度投をより入したための結果と考えられる。

◆総会報告

8月30日の例会では本学会の総会も開催されました。まず、会計より平成11年度会計報告があり、監査の後、承認されました。また、平成12年度新役員の選定を行いました。新役員は以下のとおりです。

総務:真部多真記、黒瀬勝利
会計:木下誠、立石かほ里
通信:加藤行夫、太田有子、西原幹子
編集:加藤行夫、今泉容子、佐野隆弥、村山敏勝、真部多真記、西原幹子、黒瀬勝利

◆『筑波イギリス文学第六号』について

締め切りは10月30日です。現在、5名の方から執筆予定のご連絡を頂いています。年内には会員の皆様にお届けできるよう、編集作業を進めております。

◆会費納入のお願い

今年度の会費納入をお願い致します。年会費は4000円です。会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願い致します。郵便振替(宇都宮1−43883 筑波イギリス文学会)にてご送金下さい。

筑波イギリス文学会

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茨城県つくば市天王台1−1−1

文芸・言語学系イギリス文学研究室内


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