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筑波イギリス文学会 13/09/99
◆平成11年度例会報告 去る9月1日(水)午後1時より、筑波大学人文社会学系棟にて本年度の例会が開催され、黒瀬、太田、真部、村山の四氏による口頭発表がありました。発表者自身による要旨は以下の通りです。 D.H.ロレンスの詩集『亀』の一解釈: 両性具有と初期ギリシア的宇宙観 黒瀬勝利(筑波大学文芸・言語学系2年) 私が本発表において強調して述べたのは以下の2点である。1つめは、先行研究を参照しながら、『亀』に収められている6編の詩全体を通して亀が暗示する「両性具有」を明示することである。その際、亀に充てられた「(イヴが引き抜かれる前の)両性具有者アダム」というメタファーを証明の手がかりとした。2つめは、J.バーネットの『初期ギリシア哲学』がロレンスの両性具有的イメージの形成に対してどのように関係しているのかを明らかにし、その関係から浮かび上がる両性具有像を確立することである。『初期ギリシア哲学』で概観されている「初期ギリシア的宇宙観」としては、今回とくにヘラクレイトスとエムペドクレスのものを参考にした。 ジョン・ダン 「毒気」「エレジー十九―寝床に入る恋人に」における女性表象 太田有子(筑波大学文芸・言語学系3年) 上記二篇の恋愛詩を取り上げ、男性話者と女性の関係性に注意を払いながら、女性表象について検討しました。恋愛詩「毒気」を、アンソニー・ロウは、文学様式と文化的な男女関係の型との関連において分析し、「平等な二人による対等な男女関係性の構築」を志向するダンの姿を読みとります。私は、この議論を踏まえつつ2つの問題点を提起しました。第一点は、文学様式と文化的前提との結び付け方(特に女性表象に関して)です。二点めは、男性話者の言語行為の力についてです。 これらを考察するにあたり、まず、フィリップ・シドニーの『アストロフェルとステラ』にみられる、典型的な宮廷恋愛詩のコンヴェンションの使用を観察しました。次に、そのコンヴェンションが、ダンの二篇の詩ではどのように応用されているかを考察しました。並行して、ロウの論考では考慮されていない、詩中の女性に及ぼす男性話者の力について検討しました。 『シンベリン』:イモージェンの変貌をめぐって 真部多真記(筑波大学文芸・言語学系4年) 本発表では、イモージェンの身体がもたらす諸問題をMarie Loughlinの身体についての議論を援用して考察しました。具体的にはイモージェンの身体をめぐる三つの場面(ヤーキモーとポスチュマスの賭けの場面、ヤーキモーの寝室侵入の場面、そしてヤーキモーによる報告の場面)に焦点をあてました。そして、イモージェンの身体を介して、ポスチュマス、ヤーキモー、クロートンが類似性を暴露してしまうこと、イモージェンが身体上の意味の書き換えを経て、最終的にはブリテン再建の象徴的な存在へと変貌する様子などを考察しました。 Maria Edgeworth, Patronage とプロフェッショナリズムのパラドックス 村山敏勝(成蹊大学文学部助教授) Maria Edgeworth の後期の大作 Patronage (1814)は、父 Richard Lovell Edgeworth の教育論 Essays on Professional Education (1809)の議論をもとに、縁故制を批判しプロフェッションの意義を称えた教訓小説である。あまり読まれない作品だが、黎明期のプロフェッショナリズムの表象としてきわめて興味深い。プロフェッション表象の困難さは、医師や法律家の仕事の価値を、素人はよく判断できないことである。この不安を回避するため、内科医はより目に見えやすい外科的な治療に携わるところが描かれる。法律家の仕事も、外科的な観察眼と常識が強調される。こうして作品全体が一種のプロト探偵小説と化すのは、アウトサイダーにも正しいプロフェッショナルの価値をわかりやすく表象しなければならないという要請にもとづいている。 ◆総会報告 9月1日の例会では本学会の総会も開催されました。まず、会計より平成10年度会計報告があり、監査の後、承認されました。また、平成11年度新役員の選定を行いました。新役員は以下のとおりです。 総務:小出哲也、黒瀬勝利 会計:木下誠、太田有子 通信:加藤行夫、真部多真記 編集:加藤行夫、今泉容子、大熊昭信、木下誠、菱田信彦、真部多真記、西原幹子 ◆『筑波イギリス文学第五号』について 締め切りを10月30日に変更致しました。9月1日までに7名の方から、執筆希望のご連絡をいただいております。年内には会員の皆様にお届けできるよう、編集作業をすすめております。 ◆会費納入のお願い 今年度の会費納入をお願い致します。年会費は4000円です。会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願い致します。郵便振替(宇都宮1−43883 筑波イギリス文学会)にてご送金下さい。
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