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筑波イギリス文学会 22/09/98


◆平成10年度例会報告

 去る8月22日(土)、筑波大学文芸・言語学系人文社会学系棟にて本年度の例会が開催されました。多数の参加者が見守る中、真部、太田、中山の三氏による清新かつ入魂の口頭発表がありました。発表者自身による要旨は以下の通りです。

『シンベリン』における国家意識の表象について

真部多真記(筑波大学文芸・言語学系3年)

16世紀後半から17世紀初頭にかけての国家に関する問題は、近年、ジェンダーの観点からの指摘なしに論じることは大変難しくなってきた。『シンベリン』における国家意識の表象について考察する際にも同様のことが言えるのではないだろうか。例えば、エムリス・ジョーンズ以来のいわゆる“スチュアート・シンベリン”の読みでは、シンベリンのローマへの服従に、ジェイムズ一世が目指したイングランドとスコットランドの協調を重ね合わせて読み込むことは出来ても、シンベリンがローマへの服従に向かう過程で、ブリテンという国家のイメージと結び付けられたイモージェンと激しいナショナリズムを語る女王が、どのように男性主体の国家意識の枠組みに取り込まれ、あるいは排除されていくかという問題は解決されない。そこで本発表では、『シンベリン』における国家意識とジェンダーの問題を、女王とイモージェンが表象する国家の意味を分析しながら考察する。

John Donne, Songs and Sonnetsにおける死の表象

太田有子(筑波大学文芸・言語学系2年)

Songs and Sonnetsが書かれたバロック時代のひとつの特色は、「死」への強迫観念である。疫病による大量死をはじめとする当時の状況は、「死」に対する神学的観念と関わり合いながら、「死」にまつわる様々な社会的言説を生みだした。ときに「死の詩人」とさえ呼ばれるDonneの作品に、「死」は色濃く反映されている。恋愛を詠ったこの世俗詩集も例外ではないことは、作品中の「死」に関わる多様なモチーフの存在から明らかだ。当時の「死」に関する状況は本質的な意味で、書かれるテクストの種類を限定したという指摘がある。このことを参考にするならば、Songs and Sonnetsの中の詩は、その「死」のモチーフに社会的背景を読み込むことでより理解できると言えないだろうか。一例として"The Canonization"を題材に採る。詩中の話者の「死」はひとつには殉教死という文脈で理解される。殉教という行為が当時持ち得た意義を読み込むとき、詩中の「死」は話者の新たな自己の形成を表すことが分かる。

ジョイスと未来派

中山徹(筑波大学文芸・言語学系助手)

イタリア未来派の美学を機械=雑音の美という視点から素描しつつ、未来派的な美学がジョイスの作品、とりわけ『ユリシーズ』の主題とエクリチュールのレヴェルにおいてどのように取り込まれ、同時にどのように転倒されているかを考察した。とくに『ユリシーズ』第18挿話において実践された、いわゆる女性の意識の流れは、その転倒作用がいかんなく発揮される場であり、機械の美学にもとづく未来派的なジェンダー・ヒエラルキーが解体される瞬間を含んでいる。結論部では、この転倒作用をさらに英国の未来派ともいうべきヴォーティシズムの美学と併読することによって、『ユリシーズ』をファシスト・モダニズムへの介入と抵抗として読む可能性を示唆した。

◆総会報告

 8月22日の例会では本学会の総会も開催されました。主な議題としては、会計実務の他に監査役を正式に設けるべきではないかという提案がありました。この点については、参加者多数の賛同の下、監査役の人選を事務局に一任するということで決議されました。

◆『筑波イギリス文学第四号』について

 8月末日の締め切りまでに5本の論文が集まり、ただいま鋭意編集中です。例年通り、11月中の完成と発送を予定しています。

◆会費納入のお願い

学会の財政は困窮を極めております。年会費は4000円となっておりますので、会の円滑な運営や機関誌の存続のためにも何卒お納め下さいますようお願いいたします。郵便振替(宇都宮1−43883 筑波イギリス文学会)にてご送金下さい。

筑波イギリス文学会

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文芸・言語学系 0298-53-7375 (齋藤・中山)


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